特集記事【東京食彩株式会社 山寺 昭彦】仕入れの努力で美味しくリーズナブルな食事を実現。東京食彩が挑むチャレンジとは

東京食彩株式会社 取締役 山寺 昭彦(やまでら あきひこ)

プロフィール

東京食彩株式会社 取締役 山寺 昭彦(やまでら あきひこ)

福島県で生まれ、福岡県に育つ。父である山寺 優氏の出資のもと、2008年に兄である俊彦氏らとともにイタリア料理店「コロッセオ」を中目黒にオープン。その後も継続的な出店を続け、現在グループ全体で8店舗を有する規模に拡大している。

■企業HP

https://tokyo-shokusai.co.jp

有名レストランの修行時代に学んだ、食材の大切さ

父に料理人になれと言われ歩み始めたシェフの道

ー料理人を志したのはいつ頃でしょうか。

実を言うと、元々はそこまで料理人に興味があったわけじゃないんです。ただ、小さい頃から父は僕に「料理人になれ」と言っていて「あ、僕は料理人になるんだ」くらいに早いうちから受け止めていたので、進路は自然とそうなるための道を歩んでいましたね。

あと、高校生の頃に僕はフレンチのお店でバイトをしていたんですが、その時に初めてちゃんとしたフレンチというものを食べて、その美味しさに感動した思い出があるんです。世の中にはこんな食べ物があるんだという刺激を初めて受けて、料理を作る仕事も良いものだなと思えた体験でもありました。

逆に勉強にはそこまで興味は持てなかったので高校の卒業後は上京して、料理の勉強をするため専門学校に入学しました。1年ほどでしたがそこで基礎を学び、19歳の頃に有名レストランのもとでお世話になることになったのですが、ここが大変厳しいところだったんです。

 

厳しい修行で培った技術

修行時代にお世話になっていたお店はメディアでもよく取り上げられていたところだったんです。毎日多くのお客さんがいらっしゃるイタリアンレストランで、キッチンは壮絶な現場でした。

朝から晩まで働き詰めで、怒号も容赦なく飛び交うような場所だったもので、忙しいことはもちろんのこと、家に帰ることもままならないということも多々あったんです。

そんな現場でも人はよく集まるというか、出入りは盛んだったものですから、ポジション争いも熾烈でした。僕も1年目はホール、2年目からキッチンに入っていましたが、そんな過酷な環境で人が回るペースも速かったので、多くの経験を積むことができましたね。

とても褒められる職場環境ではなかったですが、得るものは大きかったです。23~4歳の頃にはキッチンの一通りの仕事はやらせてもらえるようになって、お店自体にはなんだかんだで5年ほどお世話になりました。

 

美味しいイタリアン、イタリアでなくとも食べられる

ー修業先で得られた経験で大きかったものは何でしょうか。

一番大きかったのは、やはり食材の選び方と、食材選びそのものの大切さですね。料理を提供する上で最も重要なのは、調理の技術よりも食材選びにあるとすら考えています。

5年間勤めたお店を離れたあと、それまで貯金してきたお金を使って、単身でイタリアまで旅に出て行ったんです。イタリアを北から南まで縦断して、いいお店があったらそこで修行させてもらおうと思い、現地で100万円ほど使ってひたすら食べ歩いていました。

確かにイタリアのご飯は美味しかったんですが、是非ともここのレストランで働きたい!と思えるようなお店に出会うことはできなかったんです。唯一ここの料理は美味しいなと思ったのが、イタリアで友達が運営しているお店で、そこで食べたのがそのお店の裏の山で育った羊のお肉でした。

結局、調理の技術云々よりも、どんな食材を使うかによってその料理の味は大きく左右されるのだなと強く実感した体験でしたね。このことに気づいてからイタリアにいるのがひどくつまらなく感じてしまって、別にイタリアで修行する必要はないと思い日本に帰ってきてしまったんです。

修行でお世話になっていたお店は有名店ということもあり、毎日最高級の食材が店に届けられていたので、その時に食材の良し悪しについて叩き込まれていたことにも気づけました。

これはオーナーの手腕の賜物でもありましたが、同時に業者が相当な額をぼったくっていたために、料理の単価も非常に高かったことも学んだんです。バブル時代の名残が強く残っていたことも影響していたのでしょう。

帰国後は、知り合いのお店の立ち上げを手伝ったり、雇われでシェフを何軒か担当して数年ほど過ごしていました。27になって、修業先で働いていた仲間や兄などが一緒にお店の立ち上げに参加してくれる運びとなり、父の出資のもとで中目黒に「コロッセオ」をオープンすることとなりました。

 

仕入れに大きなこだわりを持つ理由

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友人の来店で得た気づき

ーオープン当初の客足はいかがだったのでしょうか。

あまり芳しいものではありませんでした。僕の修業先のレストランも高級志向でしたが、そこよりは少し安いくらいの価格設定、一人当たり8,000~10,000円あたりに調整していたのですが、はじめはお客様が少なくても、そのうち入ってくるだろうと楽観視してたんです。

相変わらずお客様が入らずにどうしようかと頭を悩ませていたところ、ある日以前修業先で一緒に働いていて、結婚したということで転職した同僚がお店にやってきてくれたんです。

結婚したばかりで、そこまで懐に余裕がないだろうというところを無理してきてくれてたんだと思いますが、何しろ前菜で1,500円取ってしまうようなお店だったので、なかなか財布事情を考慮すると色々とサービスをしてあげることもできず、お金のせいでお客様もお店も喜べない、そんな複雑な気持ちを抱えてしまうことになりました。

彼が帰って店を閉めた後、心の底から「俺は何をやってるんだろう」と思いました。自分はなぜレストランを開いているのかということを散々自問した結果、翌日から前菜を全部500円で提供することにしたんです。すると少しづつお客様がお店に来るようになって、気がつけば毎日大盛況という具合まで客足は伸びていきました。友人の来店がなければ、ここまでお店が繁盛することもなかったかもしれませんね。

実はオープンしてからしばらくお店は年中無休、24時間ほとんど回転しているという営業形態を続けていて、クローズの時間を決めていなかったんです(笑)ランチ・ディナー・深夜の三つの時間帯に僕は出ずっぱりで、お客様も時間帯別にずっと入っていました。

 

ー深夜帯にもお客様はいらっしゃるんですね。

そうですね、主に同業者なんですが、お店を閉めて一杯やったりする場所はあまりなかったので、カウンター席に限定して楽しんでもらっていました。流石に深夜の時間は兄や他のスタッフたちは家に帰して、お客様が帰るまで1人で調理や提供を担っていましたね。

幸いにも、僕は修行時代に似たようなスケジュールでずっと仕事をこなしてきたこともあって、特段抵抗もなくずっと動いていましたね。修行時代を共にした同僚たちも同じ経験をしていたこともあって、一緒に遅くまで働いてくれていました。

振り返ってみるととてもブラックな環境にも関わらず辞めずについてきてくれたことには感謝しかありません。おかげで開店から1年と立たないタイミングで初期投資が回収できて、2年目には神楽坂に新しいお店をオープンすることができるようになりました。

 

レストランとは、お客さんの財布を預かる立場

ーお客様が入るようになって、運営の中で変わっていったことはありますか。

大きな変化といえば、やはり仕入れの方法が挙げられますね。先ほどの友達の話もそうなんですが、僕らレストラン側の人間が本当に意識しないといけないことは、お客様の財布を扱っている存在に過ぎないということです。

お客様は消費者として、僕らの料理やサービスにお金を出してくれるわけですが、これはもう少し紐解いてみると、僕たちはお客様の財布からお金を出す意識を持って、食材の仕入れも行わないといけないということなんです。

このことに気づいてから、僕の仕入れ業者さんに対する目が大きく変わりました。これまでは良い食材だったらお金はいくらでも出すから調達してきてくれというスタンスでしたが、僕の方で頻繁に値切り交渉をお願いするようになりました。

そういった目で仕入れ業者さんを見ていると、心ある熱心な業者さんとその場の利益だけを見る業者さんがいることがわかりました。質や品数が確かでもあまりに費用が高ければお客様の財布を握っていると思うと仕入れられません。
僕たちのレストランはそういった業者さんに強気で値切りを要求するものですから、だんだんと取引をしてくれる業者さんがいなくなってしまったんです。
もちろん心ある熱心な業者さんとは当時から今でもお取引はつづいていて、今でも助けて頂いているので大変感謝しています。
ですが、当時は仕入業者さんの数が非常に減ってしまったので、色々と仕入れルートを模索しました。

すると石巻から直送で仕入れを行えるルートを確保できました。しかしその矢先に東日本大震災が発生し、津波の影響で仕入れができなくなってしまったということで、今度は銚子港まで自らルートを開拓しに行きました。築地では原価が高く、とてもリーズナブルに料理を提供することはできないため、別の漁港にあたる必要があったためです。

そして三日三晩聞き込みを行った努力が実り、直接魚を卸してもらえる人を見つけることができ、安価に質の高い魚を手に入れることができるようになったんです。

港から直接魚を卸してもらえるようになったことで、カレイのようにイタリアンでは使わない魚も入ってくるようになりました。和食レストランを始めたのも、質は良いけどイタリアン以外で活躍できる食材が手元に渡るようになったことがきっかけです。

 

 

東京食彩が挑む、大手にはできない企業努力

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安定供給に潜む代償

ー仕入れ単価を抑える努力は、どこのお店も苦慮されているように思います。

単価を抑える努力と言うと、実は弊社で取り組んでいることとは少しズレが出てきてしまいます。私たちが取り組むのは、あくまで適正価格で流通している高品質な食材を仕入れることであって、安かろう悪かろうの食材でもなければ、確実に特定の高級品を仕入れる取り組みでもあります。

魚の価格というのは、当たり前ですが季節や漁獲量によって、地域ごとに値段に違いがあるのはもちろん、それを下ろす業者によっても値段が変わります。そして一番の負担となるのが、安定した供給ルートを構築してしまうことなんです。

これは難しい問題ですが、コンビニを例に考えてみるとわかりやすいと思います。コンビニ並んでいる商品は高いですが、いつもどこでも同じものを確実に手に入れられるということで、僕たちは喜んでコンビニで買い物をします。ですが、この安定した供給網を維持するためには相応のコストがかかっており、それが単価に反映されているのです。

レストランの食材調達も同じです。いつもタイを同じルートで確実に仕入れようとすると、相応の負担が発生しますが、私たちはその時々で仕入れるものを変えているため、大幅なコストダウンに成功しているんです。西でタイが安ければそちらへ飛び、東にスズキが入ればそちらへ仕入れに行くということをしているので、同じ仕入れ値でも質の高い食材を手に入れることができています。

何を仕入れても、調理技術次第で美味しい料理を作るのが料理人の仕事です。お客さんの財布を握っている以上、必要以上にお金をかけて、無理してタイを仕入れる必要はありません。予算内で同じくらい質の高い食材が手に入るのなら、そちらを選んでリーズナブルな値段で料理を提供した方が、絶対に喜ばれるんです。

最近は魚以外にも、肉や野菜でも同じようなプロセスで仕入れも行なっています。私たちの考える企業努力は、こういった安定供給よりもコストと品質のバランスを意識した仕入れにあります。

 

池袋店のチャレンジ

ーこのような仕組みを維持するため、従業員教育にも注力されているのでしょうか。

従業員教育のノウハウに関しては、まだまだ発展途上だと思っています。マニュアルもやっとまとまり始めたところで、仕入れも僕以外の人も巻き込んでできるようになってきましたが、人の育成は今からが本番といったところです。

僕はもうどちらかというと経営側の人間になりましたが、仕入れが安定しないモデルを採用していることもあり、現場と経営側の意思疎通もきちんと行なっていかなければなりません。お互いに相違が生まれてしまわないよう取り組んでいきたいですね。

 

ー今後の目標についてはいかがでしょうか。

ひとまず、7年くらいで100億円は達成したいと考えています。出店も年に1回のペースで進めていて、2020年の3月も新たにクアルト池袋店がオープン予定です。

ここは僕としてはこれまでにないチャレンジングな出店でして、まず店内150席という最大規模の席数を有しているところがポイントです。

兼ねてから心がけてきた食材とパフォーマンスでどこまで勝負できるか、ということをこのお店ではやっていきたくて、オープン割引フェアで1ヶ月はランチ・ディナーとわず厳選メニューを1,000円でご提供させていただく予定です。

あと、仕入れの流通網も安定・拡大していきたくて、現在M&Aで協業していただける企業も探しています。もともと水産や不動産も、本業である飲食に付随する形で自社で賄ってきた部分もあるのですが、企業の成長にあたり、安定した仕入れルートはやはり持っておきたいと考えています。

M&Aというと軍門に下るようなイメージがありますが、オーナー様ともWin-Winの関係を続けられるような方法は、弊社でも模索しているところです。こういった施策は居酒屋系のお店ではよく見られるんですが、イタリアンではあまり見かけないので、もっと盛んに行われてもいいんじゃないかなとは思っています。

イタリア料理やフランス料理の職人の世界は調理を主に勉強し、その他を勉強する余裕が時間的にないまま独立してしまうことが往々にしてあります。ですので、食材仕入れの相場感が乖離してしまうことがあるのです。
M&Aはグループで運営する事により、最終的に代表者同士が良い着地点へと到着できるシステムになり得るのではないかと模索している最中です。
この業界がもう少し上向いていくことに貢献できれば良いなと思っていて、M&Aの浸透もその一翼を担うことになるのではないかと考えています。

 

ー本日はありがとうございました。

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