特集記事【株式会社エル・ディー・アンド・ケイ 大谷 秀政】5~10%に愛されれば経営は成り立つ?都会ならではの戦略で固定ファンを掴む

株式会社エル・ディー・アンド・ケイ 大谷 秀政

プロフィール

株式会社エル・ディー・アンド・ケイ 代表取締役社長 大谷 秀政(おおたに )

1968年生まれ 愛知県出身

大学卒業と同時にBIG BOSSを設立。1995年に株式会社エル・ディー・アンド・ケイに社名を変更する。

本業の音楽プロダクションの傍ら、2001年に初の飲食店「宇田川カフェ」をオープンさせる。その後も順調に店舗を拡大し、現在は飲食店を25店舗(飲食が可能なライブハウス5店舗を含む)経営。独特の世界観とクオリティーの高い料理でニッチな客層を虜にしている。

■企業HP
https://ldandk.com/

飲食業界に参入した理由

自分が行きたいと思うお店を作る

-飲食業をしようと思ったきっかけを教えてください。
もともとは、当社に所属しているバンドの打ち上げ場所やたまり場として使えるお店が欲しいと思ったのがきっかけです。またライブハウスだけが音楽の場所というわけではないじゃないですか?例えばカフェのBGMとして、当社の音楽が楽しめる場所があればいいなと思いました。

そして会社を立ち上げて10年程度経った時にはある程度の収益がありましたから、お店を作ったのは税金対策的な意味もあります。日本の税法に則ると収入は平らにしなければいけません。しかし、音楽の事業は波があり、人気のバンドかアルバムを出す時と出さないときとではかなりの差がコーヒー生まれます。店を作れば減価償却費として落とせるので、例えば利益が多く出た年に店を作ることで、5年ぐらい利益を平らにすることができるというわけです。

-もともとは利益目的というわけではなかったのですね。
もちろん採算が合わないと駄目ですが、 基本的に私の食べたいものとか飲みたいものがあるお店を作りたいという意識が強かったです。
私はコーヒージャンキーで南米系の濃いコーヒーが好きなのですが、渋谷近辺になかなか美味しいと思えるお店がなかったり、あったとしても1杯1,000円もするお店だったりします。だから、単純に「自分が行きたくなるようなお店が無かったから作った」という感じですね。

実際に当初の思惑通り濃いめのコーヒーを提供していますし、一号店である宇田川カフェは20坪ほどで打ち上げに使いやすい広さのお店にしました。

-自分の好きなお店をやりつつ採算が取れると思った要因は何でしょうか?
当初は、緻密に計算をしていませんし採算が取れるということはあまり考えていなかったように思います。とはいえ学生時代に空間プロデュースの会社に勤めていてコンサルのようなことも経験したので、私の意識の中で「採算はとれるだろう」と感じていました。
結局計算をしても絶対にその通りにはいかないので、それに縛られるのはあまり意味がないと思っています。

予算計画や目標は決めない

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希望者がいたときに店舗を増やす

-現在の店舗数は25店舗と多いですね。
まぁ、もう飲食業始めて20年くらい経ちますからね。もっと拡大する会社はしていますよ。大きくなる会社というのは、店舗数や売り上げなど色々と目標を立ててやっているでしょう。
しかし当社は、会社を始めて30年間一度も予算計画を作ったことがありません。つまり予算や店舗数の目標はないのですよ。これはやってもいい、これはやっちゃだけというのは感覚的に分かるので、結構野性的にやっちゃっていますね。

今、渋谷なんかは再開発の影響で家賃の高騰が異常に進んでいて、ここ2年で2倍ぐらいになっています。それに世の中人手不足じゃないですか。世の中の状況も刻々と変化するので、あまり会社本位になって目的を決めると失敗してしまうことも多いです。
例えば、店舗数の目標を達成するために業績が下がっているにもかかわらず拡大を続け、失敗した例もありますよね。目標を決めないことで、その時の会社やマーケットの状況にうまく合わせられるのですよ。

私はとても気まぐれなので、店を出すのがマイブームな時期がくれば月に3店舗出店したこともありました。今はただ単に面倒臭いから出店していない状態です(笑)

-今後店舗を増やす予定はありますか。
もともと最初の3店舗ぐらいで良いかなと思っていました。私は運営が始まると割とほったらかしで、管理という意味では店長に全て移譲しています。全てを任せると良くも悪くもその店長の色に染まり、お店が店長の城になっていくでしょう。そうすると自分の城を持ちたいという人がでてきますよね。
私は空間や内装を作ること自体は好きなので、今後もしお店を持ちたいという従業員が出れば店舗を出す可能性はあります。そうしないと社員が辞めてしまうこともありますからね。昔は「やりたい人がいればお店を出す」ということを大々的に謳っていた時期もありました。今は、「もう言ってくれるなよ」いう状態なのであまり周知させていませんが。

とりあえず東京オリンピックが終わるまでは、ちょっと静観しようと思っています。もしどうしても店を出したいという人が出たり、良い物件が出たりすれば新店舗を考えるスタートになるでしょう。
もちろん、誰でも彼でも言われれば出すというわけではありませんよ。店長ひとりだけ優秀でも人がついてくるような人柄じゃないと駄目なので、その人のトータルを見て判断します。

人に縛られず好きなことをやりたい

私は30代の時にもう会社を設立して10年以上経っていましたから、この時期は「出資したい」という方がよく相談に来ていました。しかし私には事業欲がないので、全部断っていたのですよ。結局人から出資されると見張られるでしょう。それなら、そもそもサラリーマンでいいわけです。私は事業を拡大するよりも、好きなことをやりたいという方が先行しているので他人からの出資は受けません。

実は、3店舗くらい経営しているときと今の給料や生活ってほとんど変わらないのですよ。元々そんなに贅沢はしませんし現状で満足しています。

私は「遊ぶために仕事をする」と思っているので、あまり事業を拡大して忙しくなりすぎると本末転倒なのです。だから、色々な知り合いの経営者を見ていると「皆もっと忙しくしたいんだなぁ」と不思議に思います。

-自分の感情に素直に生きていますよね。
ある時、1,000人くらい社員がいる大企業を経営している知人と私とで、京都の友人のところに遊びに行く機会がありました。京都の友人は何年も続く老舗のご子息で、いわゆる坊ちゃんです。
その時に大企業の経営者は、「従業員がこれだけいて年商がいくらで」という話をします。するとその老舗の坊っちゃんは「大変ですねぇ~」と一言穏やかに返しました。
それを目の当たりにして私は、「この人には勝ち目がないなぁ」とショックを受けます。だって、従業員がたくさんいて収入が多くても、それ以上に遊んで暮らせるほうが羨ましくないですか?「何が自分の幸せなのか」と考えた時に、必要以上に忙しく働くのがアホらしくなってしまいました。まぁ、人によってものさしは違うところにありますから、あくまでこれは私の価値観です。

5~10%の人にウケればいい

渋谷ならではのお店を増やしたい

-どのようなことを意識して店舗づくりをしていますか?
私は音楽でもそうなのですが、メジャーどころが好きではないのですよ。大勢の人に愛されるとか万人受けするとかいうようなものを目指していません。

それは飲食でも一緒で、5%~10%の人に「ここが1番好き」と言ってもらえるお店を目指しています。先ほども少し触れましたが、当社のコーヒーは普通のお店では特別に注文して出てくるようなレベルの濃さとなっています。
平均的においしいコーヒーを提供できるのはドトールコーヒーショップさんだったりしますよね。そういうところは、緻密にマーケティングをして日本中で平均的に不味いとはいわれないコーヒーです。もし当社が同じようにそこを目指すと、結局農園を持っているような大企業には勝てません。だから私はそこではなく、5%~10%の人が求めるものが提供できるお店にしているのです。

渋谷の商圏人口は約1,000万人ですから、たとえ5%でも50万人、10%で100万人。つまり、当社の店の規模で考えたら、商売として成り立ちますよね。都会ならではの偏った思考ですが、この場所で飲食業をするのであれば、この考えを持ったお店があってもいいのではないでしょうか。

-コンセプトは各店で変えているのでしょうか?
中には同じようなお店もありますが、基本的には違います。例えば「cafe BOHEMIA」は、中東料理がメインです。中東料理のお店ってあまりないですがファンは一定数いますし、ステージもあるので定期的にベリーダンスのショーを開催したりと嗜好性の強いお店にしました。

渋谷という土地柄を考えると、色々なお店があった方が楽しいと思いませんか?全国にあるようなチェーン店があったとしても嬉しくないですよね。やはり渋谷に来たからには渋谷にしかない渋谷ならではのお店に入りたいですから、当社は個人店というわけではないですが個人店のような雰囲気のお店を作るようにしています。

そうしないと大手企業が良い物件をどんどん借りていっちゃうのですよ。それを何とか阻止しようと奮闘しています(笑)

-他のお店と差別化するためにどのような工夫をされていますか?
当社は、基本的に硬い椅子を使いません。クッション性のある柔らかい椅子で、なおかつ脚を切って低くしています。また、照明を落として暗くするというのも特徴のひとつです。

外食の空間というのは、薄められたセックスなのでそれを感じさせられるようにしています。極端な話、お酒を飲みたければ家でひとりで飲めばいいですよね。そうではなく外で飲みたいということは、うっすらとそういうことを求めて出てきているのでしょう。
だから夜になると、お店は更に暗くなりますよ。cafe BOHEMIAくらいの感じのカフェであれば、お店の隅でちょっとキスできるぐらいの空間作りをしようと従業員にも言っています。意外と渋谷にはそういったお店がないですからね。

-大谷社長のように5%~10%の人に愛される店を作るための秘訣はありますか?
私は誰かに相談してお店を作っている訳ではなく自分ひとりで考えています。こういったニッチなお店は、やはり経験が無いと作れないでしょう。ご飯だって食べたことないものは作れないですよね。だから私は世界中のいろいろなお店に足を運んでいます。

経験値が大切だとお話ししましたが、これは一朝一夕で得られるものではありません。だから、昔からどのような考えを持って生きてきたのかということは重要なポイントです。例えば誰かと同じ場所を歩いていたとしても、「あそこにこういう飲食店があったよね」と言われても、私はピンとこないことがよくあります。逆に私が「あそこの入り口の門かっこよかったよねー」と言っても分かってもらえないでしょう。つまり人によって見えているものは違うということ。私は昔から、同級生とは見ているものが違うと感じることが多かったです。

だから結局、人の生き方とかやり方って真似しようと思って出来るものではないのではなないでしょうか。

誰かに自慢できるお店を作る

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ルールブックは存在しない

-従業員満足度を上げるための取り組みはしていますか?
ここ数年で、労働条件はとても良くなっています。飲食業は給料とか労働時間とか、昔は酷かったですよね。特にオーナーシェフのお店は、休みが全然無かったり朝から夜まで働かされたりするのが当たり前でした。さすがに今はそれもできなくなり、当社もご多分に漏れず大きく改善されてきています。

-接客に関して指導されていることはありますか?
接客は、「やりすぎない」というのも大切ですよね。線引きが難しいところですが。
当社は、接客に関する教育システムやルールブックがありません。そのため従業員の教育は店長に任せています。そうすると、良くも悪くも店長の色に染まってしまうので、きちんとチェックしなければいけません。
なんだかんだ、渋谷のお客さんは私の知り合いが多いです。私自身がお店に足を運ぶことはあまりないですが、知人からお店の評判がちょこちょこ耳に入ってくるので、それでおおよそ把握できます。

私は性格的にこだわりたいところと無頓着なところの差が激しいです。周りは大変だと思いますよ(笑)基本的に気になったことはその場で言わないと忘れちゃうので指摘するかな。例えば、「ここの照明曲がっているよ。何で気にならないの?」とか細かいことも言いますね。

-今後の会社としての展望をお聞かせください。
基本的にはクオリティーをキープして、お客さんが「嬉しい・楽しい・美味しい」というのを維持していきたいと思っています。やはり、スタッフは少しでも楽をしたいですよね。そうするとマイナーチェンジをしようとするのですが、そういうことに関しては口うるさく言っています。
結局飲食店をやる喜びって「自分が真摯な気持ちで作ったものをお客さんが食べて喜んでくれる」ということじゃないですか。そこが徹底できていなければ、飲食店をやる意味がないと思います。今のお客さんは、目も舌も肥えていらっしゃいますから、喜んでもらうためには手を抜かず高いクオリティーを維持しないといけないのです。

あと当社は飲食業がメインというわけではないですが、やはり周りに「うちの店は良い店だ」と自慢をしたい(笑)そのために存在しているので、とにかくこれからもっと自慢できるようなお店にしたいという話ですよ。

-お店を成功させるためのノウハウはありますか?
社長が現場で働くわけではないので、お店を成功させる1番のコツは優秀な人に働いてもらうということに尽きます(笑)私の仕事としては、どうしたら優秀な人が働いてくれるか考えることでしょう。

また、私が人として頑張るしかないですね。会社って良くも悪くも社長の色に染まりますから、普段の行動を含めてどう見せるかということも考えています。
太らないようにするとかオシャレをするとか、見た目も気にかけているのですよ。社長って見た目もある程度ちゃんとしていなければいかんと思います。これはスタッフに対する私なりの思いやりです。社長のお腹が出ていたりだらしなかったりしたら「なんだこの社長」ってなるじゃないですか。私が店を自慢したいのと一緒で「うちの社長はシュッとしていてかっこいいんだよ」と自慢に思ってもらえたら嬉しく思います。

ー本日はありがとうございました。

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