特集記事【株式会社サカイ食品 坂井 宏行】 フレンチの鉄人は“現地視察“で競合店と差をつける 

株式会社サカイ食品 坂井 宏行

プロフィール

1942年生まれ 鹿児島県出身

株式会社サカイ食品 会長  坂井 宏行(さかい ひろゆき)

1980年に独立をし、南青山に「ラ・ロシェル」をオープン。
お店では、鰹や昆布の出汁を使うなどフランス料理の中に和のテイストを感じられる、体に優しいフレンチコースを提供。

フジテレビ「料理の鉄人」をはじめ、数々のテレビ番組に出演し「ムッシュ」の愛称で親しまれて、数々の著書も出版している。

■企業HP

http://sakai-foods.com/restaurant/

職場のコンセプト

余裕と笑顔のある職場作り

-仕事をするうえで大切にしていることはなんですか?
従業員はお店で、長時間過ごすことになります。
そんな中で私は80%クリアしていれば、お客様は絶対に満足をしてくれると考えます。
この80%という数字は、決して20%手を抜いているわけではなく、それだけの余裕を持って働くということです。
ですが、あくまでビジネスなので79%では許されません。
80%の状態で楽しみながら料理を作り、お客様としっかり向き合いながら、お客様が欲しているものを提供してほしいと思っています。

もしシェフや従業員に余裕がないと、お客様の心情を汲み取ることはできませんし、こちらが張り詰めた雰囲気で仕事をしていると、お客様も寛いで楽しい時間を過ごせないでしょう。
適度な余裕があれば、自然と笑顔がでますし、楽しく仕事ができます。
私がお店をオープンさせて40年になりますが、これは変わらないコンセプトです。

-笑顔で働くというのは意外と難しいことですよね。
もし失敗してしまったときに怒るのではなく、サッと誰かがカバーするのです。
「次は失敗しないようにこうして」などと、次のステップのための言葉をかけることも忘れないようにしています。

また私は、どこへ行っても従業員とシェイクハンドする習慣があるのですよ。
握手をする時に手に力を入れてしっかりと握り返してくる人もいれば、そっと手を添えるだけの人もいますが、やはり握手というのは自分の気持ちを込めてしっかりと握ってほしいですね。
それによって従業員と気持ちをかわしスキンシップが取れると思っているので、これはずっと私の癖になっています。

-ムッシュはまだ現場に出られているのですか?
東京にいるときは、コック服を着て必ずどこかのお店に顔を出します。
現場にいた方が楽だし、私が現場に入ることで、従業員に「いつも見られている」という緊張感も与えられますしね。
現場に任せきりで、お店に全く顔を出さないというのは経営者として駄目です。

和のテイストをブレンドしたフランス料理

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季節感と量がポイント

-技術的な面でのルールはありますか?
懐石料理を勉強していたこともあり、日本人の胃袋に優しく健康的なフランス料理というコンセプトの元料理を提供しているので、その方向性の中で各店のシェフたちにメニュー開発をしてもらっています。
例えば出汁も使いますから、それをうまくフランス料理に融合させていく発想が大切です。

-リピーターを作るために具体的にはどのようなことを意識されていますか?
季節感と提供する量を大切にしています。
量はとても大切ですよ。
私共は基本的にコースですが、「もう食べられない」という量を出す必要はありません。
例えばワインも、高いものを提供すればいいというわけではなく、「この金額でこれだけのものが食べられる」と思って頂いた方がリピート率は高くなります。

私共のメインのコースは8,500円です。
これを2~3万円にしてしまうと、来店頻度は半年に1回ほどになってしまうでしょう。
毎月でも来店しやすい価格設定にしているにもひとつのポイントです。

あとはやはり、サービスマンの立ち姿も大切にしています。
サービスマンの立ち振る舞いや見た目次第で料理の味の感じ方が大きく変わってきますから。

従業員を信じて任せる勇気

部下の考えにNOとは言わない

-コンセプトや大切にされていることをルール化することは難しいと思うのですが。
最初にルールを作ってしまうと、その枠内に縛ってしまうのでそれを私はよしとしていません。
つまり、各シェフたちが自分たちでルールを作るというのが大切なのです。

実践してみてもし悪かった場合修正すればいいだけですから、私は各店が作ったルールに対して否定をしないようにしています。
もし私がオーナーの権限を使って「それは駄目」「あれは駄目」と言ってしまえば、彼らからの意見は上がってこなくなるでしょう。
やはり彼らを信じてあげないとやる気が起きませんから。

-自発的に考える従業員を作るためにはどうしたらいいのでしょうか?
人間は任せないと上達しないので、経営者は“信じて任せる勇気“というものを持つことが大切です。
私が指示を与えすぎると、「自分は何のために仕事をしているんだ」ということになりかねません。
従業員に任せるということは、確かに葛藤がありますよ。
葛藤はあるけれど「ここは俺のレストランだ!」と言ってしまえば、従業員は萎縮してしまいますから、それは店のためにも会社のためにもベストではないですよね。

もちろん私も最初から、こういう考えを持っていたわけではありませんが、この仕事はやはりひとりでは絶対にできないので、従業員の協力があって初めてお店を営業できるということを忘れないようにしています。
厳しい世界のなか40年間続けてこられているので、私の考えは間違っていないでしょう。

-従業員を定着させるコツはありますか?
最長の勤務年数は35年、その他も10年~20年とかなり長期で働いています。
「なんで君のところはいいスタッフが10年も20年も働いてくれるんだ」と業界仲間にもよく聞かれるのですが、私は特に何もしてないのですよ。
しいて言うなら、私は従業員の家族も一緒に働いているという感覚で仕事をしています。
だから、「店のために80%一生懸命になって、残りの20%は家族のために使ってくれ」と言っています。
やはりそのあたりで、スタッフ達が何か感じるものがあり、ここまでついてきてくれたのでしょうか。

従業員教育のシステムはない

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サービスマンが売れるものは美しい立ち姿

-シェフの教育のためにされていることはありますか?
特にしていません。
各店のシェフは、私の下で何年もしっかりと経験を積んできたので、基本はしっかりとできた人たちばかりです。
それでも、「まだお店を任せるのはちょっと早いかな」と思ったこともあります。
始めは大変だろうけども、そこで私が躊躇してしまうと彼は伸びないし思い切って任せました。
逆に言うと私の逃げかもしれないですけど、それが彼らのためにもなるのではないでしょうか。
そして、彼らが自分の好きな料理を作ってお客様に喜んでもらえて、それで会社が成り立てば一番理想の形ですよね。

-サービスマンの教育のためにされていることはありますか?
サービスマンに一番大切なことは、立ち姿です。
例えばシェフの売りものが料理だとしたら、サービスマンが売れるものは立ち姿でしょう。
それによってシェフが作った料理が倍くらい美味しく感じられることもありますから。
だから、お客様に「〇〇さんにサービスをしてほしい」とまで言われたらギャラを取れますよ(笑)

例えば、ラ・ロシェル南青山にいる郷木は立ち姿がシュっとしていて、とてもかっこいいのですよ。
彼はとても温和でお客様からしたらとても安心感があるので、この安心感が彼の売りものでしょう。
立ち姿のかっこよさは、私共の店では彼がNO.1だと思います。
更にですが、これはやはり考えてやることじゃなくて自然体でないと駄目ですね。
これといって明確な売りものがないサービスマンは、もしかしたらシェフよりも難しい仕事かもしれません。

-従業員の研修などはありますか?
常に自然体であるからこそ長く続くので、私は研修というのは好きではありません。

私自身、元々とても厳しい親方の元で修業しています。
親方は調理場の冷蔵庫の1の扉には魚、2の扉には肉、3の扉には野菜、使ったタオルは洗って側に置いておく、みたいなとてもきっちりした方でした。
ですが、きちんと整理整頓ができていれば、どんなに忙しくても絶対に慌てないのですよ。
“常に整理整頓しておきなさい”というのが最初の教えだったので、今でもこれは実践していますし、私の下で育った人も徹底しています。

あとは、食材を無駄にすることは一番駄目です。
私は意地悪ですから、休みの日に仕入状況や在庫を全部チェックしますよ(笑)
私がしっかりと見ているというポーズをとることで、彼らも気を引き締めてやってくれますから、「任せながらも規律は保てるようにポーズをとる」ということが私の役目ですね。

キッチンにこだわった店舗開発

店舗を作るときは撤退するときのことまで考える

-お店のコンセプトは統一されていますか?
それぞれのお店の場所や地域性に合わせてコンセプトは変えています。
例えば青山店は住宅地の中にある一軒家のお店なのでゆったりとした雰囲気を大切にし、ホテルの中にある山王店はスタイリッシュな雰囲気にするなど、大まかな設計等は立ち上げの際に私が決めています。

-店舗を作るうえで意識されていることはありますか?
キッチンを広く取りました。
1回作ると途中で作り直すのはかなりのお金がかかるので、最初からキッチンが使いやすいように店の1/3はキッチンにしています。

また、調理場は全て絨毯を敷いているのです。
私が修業していた職場では5時間ぐらい働いていたのですが、床がタイルやセメントなので仕事が終わる頃には足がパンパンになってしまいます。
さらに、それから水を流して掃除してということをしますから、大変な重労働です。
それに加えて東京は水道代がめちゃくちゃ高いですから、水を流して掃除をするというのは非効率的でしょう。
それだったら絨毯を敷いて終わったら掃除機をかけるだけ、という方が効率が良いと思いました。
それに絨毯に食材が落ちるとすごく目立つからすぐに拾うでしょう?だから衛生的にもいいのです。

業界人は調理場に絨毯を敷いているというすごくびっくりしますし、昔は地方からよく見学に来たりしていましたよ。
絨毯を敷くことで従業員の足にかかる負担も少ないですし、少しでも疲れない環境で仕事をしてほしいと思っています。

私は整理整頓をとにかく厳しく言っているので、お客様にもどんどん調理場を見せているのですよ。
例えば結婚式の新郎新婦がお店を見に来た時には、「私共はこういう場所で料理を作っています」ということを見てもらえれば、安心して任せてもらえますからね。
ですから壁にべっとり油が付いているとかそういうことは絶対にないです。
結局ここも顧客満足に繋がるところでしょう。

-客席に関してこだわりはありますか?
デザインには、結構お金をかけていますね。
私は赤と黒が好きなのですが、それに合わせて山王店は床を絨毯にするのではなく、本物の大理石を使いました。
大理石はいいものであればあるほど柔らかく欠けやすいのですが、その度にスタッフが修繕をしたり、定期的にメンテナンスをしたりと美しく保っています。
物は大切に使えば、5年でも10年でも持ちますからね。
私はキッチンにある備品についても厳しく言います。
お店の中でお金がかかっていないものってなんだと思いますか?私は「タダのものは空気しかない」ということを従業員に常々言っています。

また、店舗を作るときに大切なことは、撤退をする時の事を考えるということです。
店を出すのは簡単ですが撤退する時は思った以上にお金がかかりますから、無駄なものはつけないとか条件をつけるとか、撤退して原状回復させる時のことまで考えています。

食材は現地まで視察に行く

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“20日締め”が仕入れをコントロールするコツ

-メニュー開発はどのように変えているのですか?
基本的なベースは変えませんが、季節を出すために各店のシェフが主となって2ヶ月に1度程度食材やメニューを変更しています。
その際は私とシェフと営業が現地に出向き、そこで食材を見て食べてから、イメージを膨らませて料理を考案するのです。

例えば青森にヒラメを見に行くと、活け締めといって仮死状態のような形で処理をするのですが、やはり生産者の話や現地の状態を見て料理を作るのと、ただ仕入れられたものを見て料理を作るのとでは、完成品が全く違うでしょう。

シェフは常にアンテナを張って、取引先の八百屋や魚屋に「この時期はこれが良いよ」「あれが美味しいよ」という情報を教えてもらったりしているようです。

現地まで視察に行くのはかなりの経費がかかりますが、競合店と差をつけるためにはやはり現地でインスピレーションを受けるのが一番早いです。
現地の人もしっかりとサポートしてくれるので、その代わり1ヶ月間食材を産地直送してもらうなど、持ちつ持たれつでやっています。

-経費もかかりますし、原価率が高そうですね。
現在は食材費が高くなっていますから、やはり厳しいですよ。
うちでは月の仕入れ額をコントロールするために、20日で一度経理が仕入れ金額を確認し、各店舗に集計結果を出します。
もし経費がかかりすぎていたら、今あるもので賄ったり無駄な仕入れをしないように注意したりと、しっかり管理しています。

この問題はやはり、従業員の給料にも響いてくるわけですから厳しくやらないといけないところです。

今後の目標は海外出店

社長である息子を否定しない

-今後の目標を教えてください。
直近の目標としては、海外店舗を持ちたいと考えています。
海外店舗ができれば従業員のモチベーションが全然違ってくるでしょう。
昔ハワイに出店直前までいったのですが、投資会社が倒産してできなかったという失敗があるので、今後は慎重に勉強をしながら進めています。
また私の考えを次世代に引き継いでいきたいですね。

-今はご子息が社長やられているのですね。
息子は、元々外資系の銀行マンのため数字に関してはうるさく、入社した時は「よくこんなどんぶり勘定で潰れなかったな」と言われました。

息子にはやっぱり逆らえませんよ(笑)
それに私が息子に逆らうと、スタッフが信用しませんから絶対に否定しませんし、従業員が私に意見を求める時は「社長に確認した?」と聞くようにしています。

私自身は現場に入ることが好きなので、できるだけスタッフが働きやすい環境を作りながら、生涯現役で100歳まで現場に立ちたいですね。

ー本日はありがとうございました。

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