特集記事【株式会社麺屋武蔵 矢都木 二郎】夢のあるラーメン屋でありたい。麺屋武蔵が体現する企業のあるべき姿

株式会社麺屋武蔵 矢都木 二郎

プロフィール

株式会社麺屋武蔵 代表取締役社長 矢都木 二郎(やとぎ じろう)

1976年生まれ 埼玉県出身

ラーメン好きが高じて包装会社の営業職から麺屋武蔵へと転職。
2014年に先代は会長職に就任し、矢都木氏が現職に就く。
麺屋武蔵は1996年に創業され、社員数は100名、店舗数は15店舗にもなる人気ラーメン店となっている。

■企業HP

http://menya634.co.jp/

ごく普通の営業マンがラーメン屋を目指した理由

普通に就活、そしてラーメン屋へ

ーラーメン屋は小さい頃からの夢だったのでしょうか。

いいえ、将来ラーメン屋になるなんて子供の頃は全く考えもしなかったですね。
小さい時は良く外で遊んでいて、部活もサッカーをやったりして過ごしていた普通の男の子でした。
ただ、食べるのはとても好きで、食への執着心は当時からあったような思い出があります。
インスタントラーメンを作って食べるのが好きだったので、家ではよくラーメンを食べていたことも覚えています。

大学時代もラーメンはよく食べていました。
大学の近くにとても人気のつけ麺屋さんがあって、大学に行く日はほぼ毎日通っていましたね。年間100食くらい食べていたような気がします。

つけ麺を食べて大学に行くルーティンがすっかり出来上がっていたんですが、同時にラーメン屋というものがどういう風に毎日を送っているのかということも目にすることが多くて、自然と飲食への興味はそこで湧いてきていました。

例えば僕が通っていたつけ麺屋は結構な人気店だったので、11時のオープンから行列ができてほんの2・3時間で店は売り切れで営業を終えてしまうわけです。
朝は9時くらいから働いてると言っていたので、実質労働時間は5時間程度、あとはフリーそのような生活できるのは良いなぁと憧れを持った覚えがあります。

そんな飲食への密かな憧れを抱きつつも、普通の大学生活を過ごして、普通に就活を始めることになり、結局卒業後は包装メーカーに就職し、営業を担当することになりました。

 

一番になる方法を教えてくれた麺屋武蔵

ーメーカーからラーメン屋に転職したのは、やはりラーメンに忘れられない思いがあったからなんでしょうか。

それはありますね。最初に入社させていただいた企業はその後1部上場も果たしたとても立派な会社でした。将来的な安定などを求めるのであれば、間違いなくこの会社にいた方が良かったと思います。ただ、自分のやりたい事、やるべき事が明確でなかった為、仕事にも身が入らず、外回りに行ってはラーメンを食べ歩いて、会社や先輩方に迷惑ばかりかけていました。

「生活の安定のために我慢して働く」そんな生活でした。

2年弱働かせていただいたのですが、生きている心地がせず「やっぱりラーメン屋をやってみたい。つけ麺を世に広めたい。」という気持ちを再確認し麺屋武蔵に入社する事を決意しました。

麺屋武蔵へ僕が入ったのは24歳の頃で、当時からセンセーショナルなラーメン屋として、ラーメンブームの中でもかなりネームバリューを発揮していました。

数あるラーメン屋の中から僕が武蔵を選んだのは、一番になる方法を知りたかったからです。
ラーメン屋として一番になるためのノウハウを知ることが、自分にとって良いキャリアになると思い、皿洗いからですが麺屋武蔵に弟子入りすることになりました。

麺屋武蔵に学ぶ、ブレないブランドの作り方

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オンリーワンに輝く麺屋武蔵

ー麺屋武蔵に入った当時の印象はいかがでしたか。

とても刺激的でしたね。まず、社長が他の従業員と一緒に現場に立っているということが大きな衝撃でした。

社長が近くにいるということはとても素晴らしいことで、意思決定の早さに直結してくるんです。
通常の企業は意思決定の柱である社長の前に、部長や課長といった役職が挟まってくるので、新しいことをやりたくてもすぐには始められません。

ハンコハンコで、とにかく手続きが多く迅速な行動が阻害されてしまうわけですが、麺屋武蔵はすぐそこに社長がいて、何か用事や提案があれば、すぐに直談判ができるようになっているんです。

あと、やりたいことはどんどん提案してやっていってほしいという自由な社風も大きかったですね。
創業者はもともとアパレル出身で、飲食の経験は全くありませんでした。

ラーメン屋を始めるにあたり、手本とした師匠やノウハウもありません。
全て独学、我流で麺屋武蔵を築き上げていった人なので、当時センセーショナルな取り上げられ方をされたのはそういったバックグラウンドも要因にあります。
僕も結構色々なことを試したり、チャレンジしたいと思うタイプの性格なので、そんな自由度の高い麺屋武蔵とは相性が良かったんだと思います。ちなみに麺屋武蔵の「武蔵」は宮本武蔵からきているんですが、彼もまた我流で剣技を磨いた剣豪なので、創業時からオンリーワンだったことは名前からもわかってもらうことができると思います。

 

仕事はラーメンを作るだけじゃない

麺屋武蔵が、そんなオンリーワンのラーメン屋だからこそ実現できてきたことの1つとして、商品偏重にならない顧客満足の追求ができたことも挙げられます。

今でもそういうお店は時折見かけますが、ラーメン屋って職人気質というか、店や接客は無茶苦茶でも、美味いラーメンさえ出せれば客は文句を言わないだろう、という形式を美化する文化が残っています。

僕も昔はラーメン屋とはそういうものだという風に思っていたこともあるのですが、麺屋武蔵は美味いラーメンを出すことが至上ではありません。
美味しいラーメンを提供することは確かに大事なのですが、そもそもなぜラーメン屋を開店しているのか、どうすればお客様に喜んでもらえるのかを先に考えることが、私たちにとっては重要です。

お客様が暖簾をくぐって入店し、暖簾をくぐって退店するまでの間で、「また来よう」と思えるような体験を提供することが大切になるんです。

ちょっとしたことかもしれませんが、例えば店員が無愛想だったり、お冷やが出てこなかったり、机が汚かったりと、ラーメン以外の部分で悪印象を持たれてしまうと、たとえラーメンが美味しくても二度とそのお店に来ようとは思わないわけです。

そのため、麺屋武蔵もまた店作りから包括的に最高のサービスを提供することに重点を置いています。体験価値の向上が何よりも大切なので、ラーメンショーやフードコートなど、体験価値を作り込めない場所には出店しないのもうちの店の特徴です。

味が違えど「武蔵ブランド」が揺るがないワケ

ー好きなことをやって良いとなると、店舗間で統一感を保つのが難しくならないでしょうか。

おっしゃる通り、麺屋武蔵は自主性が尊重される文化があるのは良いのですが、味付けから価格まで、本当に自由に設定できてしまうので、そのブランドの維持には多少工夫を加える必要があります。

例えばお客様に提供するサービスも、お客様次第で最善のサービスが変わってくるため、柔軟な対応が常に求められます。
急ぎで昼を済ませたい方や、ゆっくりと武蔵で過ごして行きたい人など、来られる方は十人十色なので、こうきたらこうというセオリーが突き詰めると形作りにくいのが現状です。

そのため、スタッフには麺屋武蔵の体験価値を至上とする姿勢を口すっぱく共有して、その都度コミュニケーションをとりながら言動で伝えていくという方法を徹底するようにしています。
スタッフ間のコミュニケーションはとても大きな意味を持つので、その重要性を伝えるところから始めている点もあります。

コミュニケーションといえば、毎週必ず行なっている店長会議もブランド維持には欠かせません。

実際、店舗ごとにラーメンの味は微妙に違っていて、同じブランドとはいえ違う味を楽しめるのも一興とはいえますが、「麺屋武蔵らしさ」を保つために行なっているのが店長会議です。

会議を通じて、麺屋武蔵というブランドの共通認識を確認し、方向性のずれがないかをお互いにチェックします。
それだけのために毎週やる必要があるのかと思われるかもしれませんが、用事がなくても、ただ集まって顔を合わせて雑談するだけでも大きな意味があると思っています。

結局ブランドを根付かせるための文化を作るのは、店作りに携わる人同士の関わり合いです。
日本人はそこまで初対面で物怖じせず議論ができる文化も持っていないので、顔を合わせて調子どうなどと軽く話すだけでも、フランクに話せるような間柄を作っていくことができます。

そして店長が違えば店の個性や違いが生まれるのも麺屋武蔵の特徴です。会議を通じて違いを知り、それを認め合うことが大切だと思います。

 

麺屋武蔵が体現する理想の会社のあり方

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「独立」が目的になってはいけない

ー麺屋武蔵から独立しようと思ったことはありますか。

考えたこともありますが、結局独立は自分にとってのゴールではないので、麺屋武蔵で働くことが自分にとって最善の選択肢だと思っています。

よくある間違いが、手段と目的を履き違えてしまって、独立の先にある課題を解決する力を待たないまま、てんやわんやしてしまうというケースです。
独立というのはあくまでも自己実現のための手段であって、それがゴールにあってはいけません。

僕の場合、ラーメン屋をやりながらそれなりに良い生活をすることが目的だったので、何も無理に独立をする必要はありませんでした。

もちろん、麺屋武蔵で培った技術を地元に持ち帰ってラーメン屋を開きたいと言った理由があるなら別です。

自己実現の手段として独立があるならそれはどんどんやっていくべきだとは思いますが、単に豊かな生活を送るだけであれば、独立してゼロベースのリスクを取るよりも、会社勤めで好きなことをできている方がよっぽど楽しく過ごすことができます。

 

不幸な人を生まない、麺屋武蔵の企業努力

麺屋武蔵として僕が積極的に取り組んでいるのは、誰も不幸にならない、みんなが幸せを享受できるビジネスモデルの構築です。

お客様はもちろん、店のスタッフから仕入れ先の人たち、さらには株主まで、みんなが幸福であることが会社としてできる社会貢献であり、飲食業界にとってもプラスになることだと思っているので、ここは譲れないところです。

そのために、武蔵のラーメンは一杯あたりの単価が他よりも高めに設定されています。
単価が高いということは収益性も高いということなので、それだけ配分できるお金も大きくなっていきます。

正しい企業努力というのは少し高めの価格設定に見合う価値付けを行うということであり、コストカットの努力ではありません。
ラーメン一杯1000円が高いと感じるのなら、どうすれば1000円が妥当な価格になるのかを工夫していくことが、正しい方向性の努力です。

今の飲食業会というのはコストカット競争という真逆の努力が主流となっていて、もはやまともな人が勇んで働ける場所ではなくなりつつあります。

下積みの時代は「修行」と称して低賃金労働、それに耐えた一握りの人間がオーナーとなって成功するが、また同じような雇用をする。この負のスパイラルが今の飲食業界だと思います。これでは働き手は増えません。たとえ独立しなくても定年までしっかり働ける職種にしていかないと飲食業界に未来はないと思っております。麺屋武蔵は今後飲食業界の新しい働き方として注目されるような企業になっていきたいです。

 

-本日はありがとうございました。

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