特集記事【 株式会社 高倉町珈琲 横川 竟 】すかいらーく創業者が語る、飲食店経営の必須事項

FoodMedia Food Service innovator 高倉町珈琲 横川竟

プロフィール:

代表取締役会長 横川 竟(よこかわ・きわむ)

1937年生まれ

1962年に兄弟でことぶき食品有限会社を設立し、取締役となったのち、すかいらーく代表取締役に就任。2008年の退任後、2013年より高倉町珈琲店を創業。2014年には株式会社化している。
東京、茨城、埼玉、山梨など都心を中心に20店舗以上を展開。今現在も拡大し続けている。

■企業HP
https://takakuramachi-coffee.co.jp

顧客満足度の捉え方

いい店は作れても、いい経営ができるとは限らない

―顧客満足度向上のために行なっていることを教えてください。

難しい質問ですね。少なくとも単純にいい店を作るというだけの話であれば、お金さえかければいくらでも外観は作り込むことができます。依頼すれば良いというだけの話ですから。ただ、店舗経営は芸術品の製作とは違い、お金をかければ良いものが生まれるということではありません。

そういった芸術的な顧客満足とともに経営者が考えなければいけないのは、そもそも自分は商売をやっているんだという自覚です。商売にまず必要なのは投資ですが、その商売につぎ込んだ投資をどれくらいの期間で回収するか?という感覚というわけです。

経営者が持つべき「投資を回収する」という感覚

1億円かけて商売を始める場合、そのお金の回収には一体何年かかるのか、あるいは何年で回収するつもりなのか、投資の回収にかかる期間をどうすれば短くできるのか、そもそも、その商売にはいくらのお金がかかるのかと、ここに意識を向けるだけでもたくさんのことが見えてくるようになります。

この投資を回収するという意識を、多くの経営者が全く身につけずにその商売へ手をつけてしまっているのが問題です。大抵の場合、こういったことには商売を始めてから気づいてしまうわけですね。

商売というのは自分の思い描いている商品と、マーケットの需要が折り重なるところで成り立ちます。商売はここを見極める力が試されますが、同時に資金調達能力も必要になります。

商売の能力と資金調達能力は別物です。一声かけるだけで出資者が見つかったり、すぐにお金を借りられるコネがあれば良いのですが、これがなければ商売の能力を実力で示して、資金力をカバーしなければなりません。

ここでいう商売力は、つまるところ売り上げを作る力です。売れる店を作れば、投資してくれる人は現れます。いい会社には多くの資金が集まりますが、それはその会社の商売力を見込んでのことなんです。

 

商売に必要な思考の整理法

横川竟 高倉町珈琲 Food Service Innovator経営に必要な4つの商品

―商品を揃える上で重要な考え方について聞かせてください。

商品は大きく分けて、基調商品、季節商品、ファッション商品、未来商品の4つのカテゴリに分類できます。1つ目の基調商品は、その店の経営の根幹となる商品です。

ファミレスでいうハンバーグやエビフライといったメニューですが、ラインナップを考える上ではこれが全体の50%を占めていなければならず、それを下回ると倒産すると考えてください。時間や季節、地域を問わず出せる基調商品の割合が80%を超えると苦労せずに儲けを得ることができますが、同時にとても難しいことでもあります。

2つ目の季節商品ですが、これはその名の通り四季に合わせたラインナップですね。季節の野菜やフルーツ、魚など、これらは全体の30%程度に収まるのが妥当です。3つ目のファッション商品ですが、これはいわゆる流行り物のメニューですが、最近ではタピオカなんかがここに入ってくるでしょう。全体の10%にあたります。

最後の未来商品ですが、これはその店が将来的に基調商品となるような可能性を育てるためのラインナップです。これもファッション商品と同じく10%程度が妥当な割合ですが、未来商品の担う役割はファッション商品よりも大きなものになります。

そもそもファッション商品というのは、時代の流れに合わせた商品のことを言います。言い換えれば、これは遅かれ早かれ消えていく商品なわけです。一方の未来商品は、末長く消費者の人たちに喜んでもらえるような商品であり、その店のブランドになっていく商品でなければいけません。

これら4つの商品のカテゴライズをきちんとできているお店は、残念ながらそうそうあるものではありません。

 

財務戦略は後回し

―経営戦略についてもお伺いしたいところです。

戦略については優先順位が肝心です。まず考えるべきは立地戦略で、その次に建物戦略、商品戦略と人事戦略が続き、最後に財務戦略がきます。

まず言っておきますが、最初に財務戦略が来てしまうようではいけません。これは必ず最後にやるべきで、最初にやっていては何の意味もありません。悪い例として薄利多売のビジネスモデルがありますが、これは「安くすること」を第一としているため、一番良くないケースと言えます。

多くの人がなぜこのような商売に手を出してしまうかというと、それは自分の技術に自信がないからです。コストカットは技術がなくても誰でもできます。肝心なのは、これ以外のところで商売をするためのスキルなんです。

あと、これらの戦略は立案するところまでは実現できても、実行するところまでたどり着けるかも重要になってきます。計画を実行するのは本当に難しいことで、うちの店でも思うようには中々すすめられません。ですがそれでも計画を立てることで、スタートラインに立つことが可能になるのですから、やはり計画を正しく立てることは非常に重要になってくるわけですね。

計画を立てることで、経営の軸を作ることができます。軸ができれば、それを意識した行動や努力につながります。計画を立てることは、スタートラインを作ることに等しいんです。

 

思考の整理が知恵を生む

―お話を伺う限り、とても頭の中が整理されているように見受けられます。

頭の中を整理することは大切で、整理されているからこそ知恵が生まれてきます。商売の基本は人がやらないことをするというものですが、そのためには商品開発に多くの時間を費やさなければいけません。とは言え行き当たりばったりではらちがあきませんから、食品業・レストラン業としての基本をしっかりと整えて見つめ、分析していく必要があります。

商売をする以上、現場で感覚的な経験を養うことは知恵を生む上でも重要ですが、その前に自分が携わる物事を整理して見つめられる視点を持っておかなければいけません。がむしゃらに飛び込むのではなく、整理して見つめるからこそ知恵が生まれてくるのです。

さっき話した戦略こそ、ここで言う整理に当てはまります。事前に立てた戦略に則って経営を行えば、現場の事象を俯瞰して見つめることができます。知恵はこの視点から生まれるんです。

 

―知恵の出し方についてもう少し詳しく伺いたいです。

考えるためのヒントは身の回りの生活にあふれています。例えば自分が普段食べている夕食の献立もそうですね。この時に自分が食べている食事の原価計算をしてみるんです。

朝食や昼食はいつも決まっていたり、食べなかったりすることもあるものですが、夕食は結構バリエーションが豊富じゃないですか。季節によって食べ物の味やラインナップも変わってくるので、その日の献立を見ながらこれは何円だなとかを考えると、平衡感覚を養うことができます。

飲食をやる人にとって、食べて計算する力は非常に重要です。これができないと、商品の価格設定をする上でも自分の中に根拠を作ることができなくなり、適切な値付けができなくなってしまいます。

食事における50円はどれほどの意味を持つのかを、日々の食事からしっかりと考えることが重要です。

 

信頼される経営のあり方

飲食 経営 横川 高倉町珈琲

複数店舗経営はクオリティの維持に注力すべき

―店舗の質を向上するために心がけていることはありますか。

複数店舗を経営する場合、質の向上というよりも、本部が求めるクオリティを維持できているかどうかをみる必要があるでしょう。

そのためにはトップが毎日店を回ることが何より大切ですし、覆面調査もあまり意味をなしませんが、活用する場合は美味しいか不味いかといった主観的な判断基準ではなく、こちらが期待する店舗のクオリティを維持できているか否かを見させるようにしています。そもそも、消費者は一般的にそのような厳しい意見は求めていないんです。

仮に店のクオリティが維持できていないようであれば、それはスタッフ全体の問題というよりも、本部としては店長の教育に問題意識を持つことが重要になるでしょう。

 

―店長未満のスタッフの指導についてはどのように行なっているのでしょうか。

特徴としては、あまり事細かなルール設定は本部の方から提示していません。基本的には店長の肌感覚に任せているので、身だしなみや化粧の塩梅、髪型はどうするかなど、すべて店長のさじ加減です。

調理についても本当は細かいルールもあるんですが、手袋の着用が義務付けられていたりするので、その全てをいちいちスタッフ一人一人に伝えたりはしていません。もちろんガムは噛まないみたいな基本的なルールは伝えますが、逆に言えばそれぐらい基本的なことしか伝えないことが定着しています。

このように本部から直接スタッフに義務付けることが少ないからこそ、店長力が問われるところでもあります。経験や実力がないとこのさじ加減を見極めることはできませんから、うちには優秀な店長を採用しますし、実際に集まってくれる人はベテランの人たちです。

そもそも、本部としてはそのような細部のルールづくりにこだわるよりも、新商品の開発や接客に力を入れるべきなんです。

細かくルールを作らないのは、そこに余計なコストを割かないようにする為でもありますが、自然といい意味での枠が生まれてくることにも期待できるからです。

その店ごとの経験を通じて、独自の「枠」が生まれてきます。本部は枠を作るのではなく、自然発生した枠を神輿のように担ぐことで、うまく店舗を動かしていくことが大切です。

 

店の未来は経営者の信頼感から生まれる

―理想的な経営者のあり方について教えてください。

何より信頼できるトップであることが重要です。会社経営には数百人規模の人間のエネルギーが集まるわけですが、このエネルギーを固めていくためにはみんなが同じ目線でものを見、生きているという実感を生んでいくことが必要になります。

僕はドライバー付きの車を持っているだけ贅沢な生活をしているかもしれませんが、他の面においては非常に質素なものです。トップが目線も生活も現場の人たちと同じだからこそ、みんなが1つの枠の中に収まることができるのだと思っています。

複数店舗経営は非常に難しい商売ですが、みんなと一緒に歩み、苦労し、必要とあれば自分から人一倍苦労することを買って出ることも大切です。お客さんのためにという思想を一丸となって共有することは、単なるお金儲けにとどまっていてはできません。

 

―スタッフにそのことを伝えるためにやっていることはありますか。

このことは口で伝えるだけでなく、態度で示すことが必要です。苦労に見合った報酬や未来をスタッフに与えられることが、仕事のモチベーションと職場への安心感に繋がります。

例えば自分が体を壊してしまった時にサポートしてくれるのかどうかや、自分はどのような将来を送ることになるのかといった不安を、実際に手当やサポートの例を示すことで解消していきます。

独立の機会を常に提供しているのもその1つと言えますね。例えばうちでは事業部長になるとフランチャイズの権利も与えてしまうのですが、これは店長の困っている仕事を担うと同時に、いつでも独立できる環境を与えて選択肢を提供しているのです。

この責任感に耐えられるかどうかを任された本人は試すことができますし、肌に合わないと思えばすぐにやめることもできるので、リスクは小さく済みます。そもそもそれができなければ退くべきなので、良い練習の機会にもなりますね。

 

―ご自身の今後についてお聞かせください。

今はまだ一線を退くことはできませんが、身を引く機会については常に考えています。できるだけ若い人たちにポストは与えたいですし、僕が会長のポストに居ついているのも社長というポストを作るためです。

今はまだ組織が固まっておらず、社長も成長している段階なので、早くても引退までに3年か、それ以上はかかると考えています。若い人が来てくれているので、内心では大丈夫かなと思っているところもありますが、それでも今はまだ時期ではないですね。しっかりと敷いた線路の上に新しい機関車が走り始めてきたころ、それが引退のタイミングだと見ています。

 

ー本日はありがとうございました。

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