特集記事【株式会社ケイシュウフーズ 野口 卓也】MBAを取得した経営者の戦略 社員独立制度の効果

株式会社ケイシュウフーズ 代表取締役 野口 卓也(のぐち たくや)

プロフィール

株式会社ケイシュウフーズ 代表取締役 野口 卓也(のぐち たくや)

日本大学芸術学部を卒業。27歳での結婚を機に飲食業界へ入る。
寿司屋で板前を経験した後、大手飲食メーカーに入社し最終的に代表取締役社長に就任する。
その後40歳の時に外食チェーンを買収。経営をしながらMBAを取得する。
現在は「とん豚テジ」を国内に5店舗、海外1店舗の計6店舗を経営する。

■企業HP

http://www.tontontezi.com

27歳で飲食業界へ

-学生時代の時から飲食業界を志していたのですか?

いいえ。実は私は日本大学芸術学部の出身です。そこで映像系の、かなり専門性の高い勉強をしていたので、将来はその業界に進むのだろうと考えていました。ですが、企業に就職するというよりも自分で映像を作りたいという気持ちが強く、かっこよくいえば芸術家気質だったので夢を追いかけていたのです。好きなことや自分のやりたいことを突き詰める性格なのでしょうね。

大学の同級生も、世捨て人のような人が多いですよ(笑)お金儲けは得意ではないですが、自由に自分の好きなことをして、今ではテレビに出演している人もいます。

卒業後は定職に就かず、海外、主にアメリカで引っ越し屋や窓ふきなどをしてお金を稼いでいました。いわゆるフリーターですね。 この頃は特にやりたいことなどはなく、起業をするつもりもありませんでした。

結婚を機に寿司職人に

-飲食業界に入るきっかけを教えてください。

27歳の時に結婚をし、“手に職”というような仕事をしようと考えたのがきっかけです。そこでチャレンジしたのが寿司屋の板前でした。板前を選んだのは、 手に職というイメージが強かったのと、単純にかっこいいと思ったからです。

寿司屋では3年半ほど働いていました。昔は下積み時代が長いイメージがありましたが、実際にはそのようなことはなく、お客さんに出せる程度のものは作れるようになりました。寿司を握るのはもちろん、魚をさばいたり卵焼きを焼いたりもできるレベルです。寿司職人でいえば中の下くらいの腕前ですが、一通りはこなせましたよ。

 

大手企業でマネージメントを学ぶ

前向きな姿勢がかわれて社長就任

-寿司屋を退職した後のことを教えてください。

寿司屋のオーナーが急に閉店をすることを決めて、転職をすることになりました。当時転職したいと考えていたわけではないですが、新しいことにも挑戦したいと思っていたので、ちょうどいいタイミングだったと思います。

寿司屋を辞めてからは、正社員として大手外食チェーンに入社しました。当時は店舗が350軒ほどある大きな会社です。

トータルで8年間勤務し、最初はキッチンのスタッフから始め、最終的には事業部の代表になりました。

 

-大手企業に入ってどのようなことを学びましたか?

大手の企業に入って良かったと感じることは、マネージメントがしっかりと確立されてそれを学べたことです。それまではパソコンに触れる機会もなく、キーボードを打つことから練習し、表計算ソフトや原価の管理などもここで初めて覚えました。寿司屋の頃は売り上げなども知らないレベルだったので、すごく楽しく学べましたよ。

また大きな産業としての飲食店というものをここで理解したように思います。ですが、この頃もまだ自分の店を持ちたいという気持ちはありませんでした。

 

-スピード出世だと思います。出世するコツを教えてください。

私は入社7年目、37歳の時に執行役員として社長になりました。今振り返ると、前向きな性格だということが出世した大きな要因だと思います。環境が変わっても自分がやるべき仕事は変わらないと思っているので、大変で泥臭い仕事も文句を言わずにこなしました。すごい才能があり何かをビシっときめた訳ではないですよ。

 

-社長を務められていかがでしたか?

やはり環境は大きく変わりました。物事を大局的に見ないといけないですし、意思決定もしなければいけません。

私なんかは、従業員として一番下から店長になってマネージャー、スーパーアドバイザー、部長、社長と段階を踏んで出世しているので、現場の様子などを全て分かっていました。そのため人から見れば視野が広いと思われていたでしょう。生え抜きも悪くはないのですが、階層に自分を合わせづらいというデメリットがあります。今思うと社長をやっていたときも、店長くらいの思考レベルだったかもしれませんね。

ですが、社長をやっていると付き合う相手はやはり企業のトップレベルの方が多いです。その当時できた友達はみんな楽しんで仕事をしていましたし、そういう人たちと付き合うことで私の視野も大きく広がりました。そういった意味では、私はとても人に恵まれていると思います。

 

-経営をするなかで大変だったことはなんですか?

やはり上場企業程スケールが大きい会社は、ステークホルダーが多いです。今であればパブリックであることを理解できるのですが、当時株主の配当などを考えて仕事をするというのは、あまり理解できなかったのですよ。何のために仕事をしているのだろうということです。現場から入っているので、会社として経営と資本の分離だったりっていうのを理解しづらかったのだと思います。その点は苦労しましたね。

 

MBAを取得

雇われ店長から経営者へ

-なぜ起業しようと思ったのですか?

起業したきっかけは、自分でオーナーシップを持って会社を経営したいと思ったからです。大手企業で働いていた時は役割として社長をしていましたから、自分でオーナーシップを持たないことに物足りなさを感じました。それと同時にオーナーシップを学びたいとも考えました。

そこで15年以上あった事業を買収し経営することを決意します。もともと10店舗ほどを抱える企業だったのですが、そのうち6店舗をうちが買収しました。

またこのタイミングで、元々取りたいと考えていたアメリカのMBAを取得することにします。

 

-40代でMBAを取とうと思ったのはすごいですね。

たまたま時間とお金があったからなんですけどね。MBAの取得と経営を同時にするのはチャレンジでしたが、今後必ず役に立つと考えたので、結局4年ほどかけて47歳の時に取得しました。

MBAをとって良かったことは、たくさんの他業種の方と友達になれたことです。頭がいいというよりは、情報処理能力が高く器用な人が多いと感じました。私に足りないものをたくさん持って行って、マーケティングに長けている方が多いので、何かの時には助けてもらえるかなと思っています。

私個人的な意見ではありますが、日本のMBAを取るのであればアメリカのMBAを取るのがおすすめです。英語の書く能力や読む能力が鍛えられますし、グローバルな交友関係を築くことができます。

 

社員独立制度で好転

株式会社ケイシュウフーズ 代表取締役 野口 卓也2

失敗を繰り返した3年間

-企業するときに勝算はあったのですか?

元々買収した企業は年間2,000万円の赤字を出していました。ですが、お店自体はとてもいいお店でしたし、私自身が経営に関するノウハウを持っていたので、当初は半年ほどで持ち直すと考えていたのです。

まず新商品の開発や経営管理の見直しなどいろいろなことを試しましたが失敗し、結局3年間赤字が続きます。また、 従業員は韓国人を雇っているためマネージメントにも苦戦しました。

かなり苦労もしましたがいろいろと勉強になりましたし、この3年間で経営者として大きく成長できたので、今ではいい経験をしたと感じます。

 

-なぜ軌道に乗らなかったのだと思いますか?

私が来てから新しい店舗を出店しました。そのお店は一応今でも残っているのですが、出店当初は全く軌道に乗らず大失敗をしてしまったのです。

当時私は売り上げが伸びない原因は、お客さんがお店のメニューに飽きているからと仮説を立てて、新メニューを増やしました。ですが、お客さんはそんなことを求めていませんでした。

ただ単にメニューを増やすとその分食材の在庫を抱えなくてはいけませんし、オペレーションも大変です。さらに、メニュー数があれば注文が分散するなどマイナス面も多くあります。

売り上げを安定させるためには、既存のメニューをきちんと出してきちんと説明するということを徹底する方が大切だったのです。

また、韓国料理というニッチなお店なので、新規のお客さん集めに苦労しました。この業界は、軌道に乗るまでにかなりの時間を要し、ヘタをすれば2年ほどかかります。イチから起業していればそういったことも分かるのですが、私の場合は出来上がっている店舗を買ったわけですから、それを知らなかったのが赤字を出してしまった要因です。

ただ一度来て頂けると、うちのお店は本当に美味しいのでリピーターになってもらえます。

とはいえ多くの方は韓国料理店の利用頻度が低く、半年に1回程度なので1年以上は赤字が続きました。

 

-好転したきっかけは何ですか?

社員独立制度にしたことです。具体的には、従業員に各店舗のオーナーになってもらい、オーナーシップをとらせることで従業員が一人前になり、提供するサービスのクオリティが上がったことが好転したきっかけです。社員独立制度に切り替えてから人間関係も良くなったと感じます。

 

-社員独立制度にして感じる具体的なメリットは何ですか?

日本人は雇われ店長でもうまくマネージメントすれば一生懸命働いてくれるのですが、韓国の方は独立精神が強いので気合が違うのですよ。

例えば、やる気がない従業員に「この商品をおすすめして」と口酸っぱく指導したとしても、結局マニュアルを読んでいるだけになってしまいます。ですが本当にオーナーシップを持っておすすめしようと思うと、言葉に気持ちが入ります。気持ちひとつで言葉の重みが変わってくるので面白いですよね。

 

-社員が一人前になったと感じたエピソードはありますか?

ある店舗の店長が韓国に里帰りした際にたくさんの荷物を抱えて日本に帰ってきたので何かと思うと、全てお店で使う備品でした。日本で仕入れるよりも韓国で仕入れた方が安いから買ってきたというのです。社員の時は、そういう備品の経費のことなどは全然考えていなかったので、そんなことも考えられるようになったのかと思うととても嬉しく感動しましたね。

やはり社員独立制度を導入し独立させることで、自分の店だという意識が強くなったのでしょう。

社員がしっかりと独立しひとつの店舗が利益を大きく見出すと、他の店舗も「私もやればできるんだ」と感じ、やる気やモチベーションが上がることで全体的に業績がアップしました。

 

強みを活かした経営戦略

異文化交流が楽しめるお店

-顧客満足度を上げるために意識されていることはありますか?

韓国料理を食べに来てくださるお客さんは日韓問題など関係なく、本質的に韓国のことが好きな人です。うちのお店では従業員が目の前でお肉を焼き説明をするので、その際に片言の日本語で接客をしてもらうというのが感動体験に繋がります。

例えば「韓国のどこ出身?」など日常会話をすることで、異文化体験を楽しめるのです。だから韓国の方しか雇っていません。

また目の前で焼いて説明をすることで、お客さんと従業員がコミュニケーションをとれます。リピーターになってくれるかどうかは、従業員とお客さんがうまくコミュニケーションが取れるか取れないかで大きく変わってきますよね。そのため従業員がしっかりと育てば、お店のリピート率が必ず上がると思います。

 

-メニューを追加したり変更したりしていますか?

最初に失敗した経緯もありますし、基本的にはあまり変えません。新しくチャレンジするよりも今の価値を磨き上げることが重要なのです。ただ、キッチンスタッフの中には新しいメニューを作ってみたいと考えている人もいるでしょうから、その際はしっかりと丁寧に考えて変更しています。

 

月に2度の野口塾

独立するためのフォロー

-従業員教育で意識されていることはありますか?

今はやっていないのですが、月に2回店長を集めて“野口塾”というOJTを開催していました。その時は独立前だったので、みんなピンと来てなかったと思いますが、徐々にボディブローのように効いてくるはずです。

実際に独立をしてビジネスの専門用語に触れたときに「この言葉はどこかで聞いたことあるな」と思い出すだけでも意味があると考えています。

もともと社員はどこに出しても恥ずかしくないようにしたいと考えていたので、独立などは関係なく意識レベルを上げたかったのです。実際に独立を考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。

 

テイクアウトを強化

株式会社ケイシュウフーズ 代表取締役 野口 卓也3

新事業のためにリサーチ

-今後のブランドとしての展望はありますか?

今行っている事業は、立ち上げるまでも軌道に乗せるまでもかなりの時間を要します。そうなると店舗数も増やしていけないので、最初に考えた戦略は10坪ぐらいでできるフードコートのような形で出店することです。

それを実証するために、出前を始めました。出前ならば、リスクを最小限まで下げることができるので、Uber Eatsを活用しています。最初の時はすごく人気があったのですよ。

どういう商品がどのぐらいのプライスだったら売れるのかということをデータ化し、いくらぐらいの投資をしても利益が出るかなどを試行錯誤しています。

先ほど申し上げたように初期投資が大きく立ち上げが難しいものではなく、今後はリスクが少ない事業を考えています。とはいえ、当たれば1億円売り上げて1千万円以上儲けることもできるので、飲食業界は夢がありますよね。

 

-この先店舗を増やす予定はありますか?

可能性はあると思います。本当は「100店舗!」とか言いたいところなのですが、正直今そういう目標はありません。

それよりも社長を作ってあげたいという思いが強いです。社員に比べると、私の方が持っているノウハウが当然多いです。いくら働いている社員がいい人間であっても、現場だけでは知識を仕入れることは難しいので、不足している部分を私が補っていければと思います。私は雇われ社長が嫌で経営者になったので、自立した社長を増やすのが私の希望であり喜びです。

実は今の会社も社員に受け渡すつもりでいます。それで売却利益を取ろうと思っていないので、株も時価で手放す予定です。

 

-海外にも出店されていますよね。

上海の店舗はライセンスでやっています。私もオープンの際は、泊り込みでサポートに行き、大変でしたが楽しかったです。

まだまだ試行錯誤中ですが、将来的にはアメリカの本土などでもっとライトな、フードコートのような形でコリアンフードを作りたいと思っています。

私は飲食業界に携わったのもITに触れたのも30歳くらいのときなので、かなりの遅咲きです。そのため、今48歳なのですがこれからも新しいことにたくさん挑戦できるのでとてもワクワクしていますよ。

 

-本日はありがとうございました。

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