特集記事【アクトダイニング株式会社 田中 洋介 】飲食を通して社会貢献ができる会社を創る 飲食業の本来の楽しみとは?

アクトダイニング株式会社 田中 洋介 4

プロフィール

アクトダイニング株式会社 代表取締役社長 田中 洋介(たなか ようすけ)

1984年3月24日生まれ 神奈川県出身

23歳で独立し、沖縄料理のキッチンカー「あしびうなぁ」をオープン。当時珍しかった麺料理を扱うことで大ヒットし、26歳で固定店舗をオープンさせる。現在は、国内に「スペインバル bardEbis」「焼肉キングコング」「肉バルキングコング」「たくみ食堂」の4店舗、海外に「Huntington Roll」を1店舗、キッチンカー「あしびうなぁ」を3台運営。
現在は食品ロスなどの環境問題にも切り込み、社会貢献ができる会社作りに注力している。

■企業HP
http://www.act-dining.com/

自分で人生の選択を始めたのは小学生の時

父から受けた大きな影響

-幼少期はどのようなお子さんだったのでしょうか?
私の父はアメリカで仕事をしたのちに日本の会社の代表になり、最終的に独立しています。
その父によく言われていたのは、「お前はお前だから、自分の力で選択をして生きていけ」ということです。また、高校生の時には「これを読んでみなさい」と本を渡されることもありました。直接経営に活きる本というよりは、一人の人間としてどうやって生きていくかというヒントが書いてあるような本だったと思います。

私が通っていた小学生は、ひとクラス40人のうち30人は中学受験をするような学校でした。 そんな環境で育ったので私も中学受験をしようかと考えた時期もあったのですが、結果的に、当時熱中していたサッカーを公立中学校でも続けられるのであれば私立中学校に行く必要はないと考え受験をしないことを決めます。

親は私が選択したことを認めてくれましたし、子どもの進む道を問いて導いてくれるような両親でしたね。

直感で沖縄に移住を決める

逆境を乗り越えた下積み時代

-独立を考えたきっかけを教えてください。
日本体育大学に進学したのですが、学校にも行かず寿司屋のアルバイトを週5~6日して夜は遊び歩くという生活していました。寿司屋を選んだきっかけは当時多くのアルバイトが700~800円の時給だったのに対して寿司屋は時給が1000円だったことです。最初はお金で選んだアルバイトでしたが、そこの大将が少し変わっていて、アルバイトの私に「商いとは?」という話をよくしてくれました。例えば、商品の原価やお店のカラクリなどです。私からもいろいろと質問をしていましたから、「経営に興味あるんだな」と思われていたのでしょう。それもあり大学よりもアルバイトの方が充実していたのです。

この寿司屋は昔の江戸前スタイルで、あまり余計な料理を出さないというお店だったのでもう少し料理について勉強したいと思うようになりました。
そんな時ドライブをしていると、「よし沖縄に移住しよう!」と急に思い立ちます。それで大学を辞めることを決意しました。

これが20歳くらいの時の話です。

-沖縄で就職したのですか?
魚料理を学びたいと思っていたので、しっかりと技術が確立されていると感じた居酒屋にアルバイトとして入りました。履歴書に寿司屋で働いていたことを書いていたので、先方からすると「何でもできる」と思われて無事働けることになります。ですが蓋を開けてみれば何もできませんから、料理長から半年ぐらいは名前も呼んでもらえず話もしてもらえません。精神的にとてもきつかったですが、「大学を辞めてひとつ目のアルバイトもすぐに辞めるなんて人生が狂う、本当のクズになってしまう」というのが自分で分かっていたので絶対にやめることはしませんでした。

そのうち料理長にも認められるようになり、さまざまな仕事を仕込まれました。元々その料理長は東京の寿司屋で修行していた方だったので、色々と学ぶことが多かったです。包丁をしっかりと扱えるようになり、普通の居酒屋だったらこだわらないような細かいところまでしっかりと指導してもらい基礎を固められたので、本当にここで働いて良かったと思います。

時代の波に乗り大成功を納める

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業界最速で3大フェスに出店

-その後独立されたのですよね。
私は沖縄に移住した時に「26歳までにお店を持つ」という目標を決めました。沖縄で2年ほど修業をしたので技術的にはすぐにやれると思いましたが、資金面をどうするかということが問題です。その時にたまたまテレビで東京国際フォーラムのネオ屋台村の特集を目にします。キッチンカーであれば初期投資があまりかからないですし、移動販売でお店を出す資金を作るのが、目標を達成するための近道だと考えました。

そこで当社の副代表の井筒を誘い、移動販売をすることを決めます。ですが2人合わせて60万円の資金しかありません。通常キッチンカーを始めるにあたって300万円ほどの資金が必要というところ、鉄工所の人に頼んで安く骨組みを作ってもらったりホームセンターで資材を買って自分たちで手作りしたりしたことで何とか予算内で完成させました。

ベニヤ板を張って作りましたから「キッチンカーを木で作るなんて斬新!」と同業者が覗きに来たり噂をしたりして「若い男2人が変なキッチンカーを作った」とかなり話題になったのですよ(笑)

これが23歳くらいの時です。キッチンカーでは、沖縄料理のタコライスやソーキそば、ソーキ丼を販売しました。

-業績はいかがでしたか?
とにかく仕事がどんどん入ってとてもうまくいったのですよ。ちょうどご当地のB級グルメが流行りだす少し前にオープンしたので、その波に上手く乗れたのだと思います。

また、今でこそラーメンのキッチンカーがありますが、当時はまだ麺料理を販売しているキッチンカーはありませんでした。麺屋さんと相談して伸びにくい麺を作ったり、茹で麺にしてお湯が汚れないようにしたりしたのがよかったのでしょう。

移動販売業界で、フジロック、SUMMER SONIC、ロッキンジャパンに出店するのは共通の目標なのですが、オープンして1年後には全てのフェスで出店できることが決まりました。これは業界最速だと言われています。この3大フェスは、とても倍率が高く私自身も受からないだろうと思って応募したにも関わらず3つとも通ったので、とても対処しきれずロッキンジャパンだけは断ってしまいました。とんでもない売上規模の仕事が入りましたが、それをこなすだけのオペレーションを持っていなかったのです。その他2つのフェスは何とか対応し、そこからは大きいイベントもどんどん入れるようになりました。

60万円でスタートした移動販売でしたが、3年後には600万円にまで資金が増え、ようやく固定店舗にこぎつけたという感じです。

26歳までに店を持つという目標があったので、自分がしたいお店とそれに対して何が必要なのかということを逆算しながら仕事をしていたのが功を奏したのだと思います。

街に求められる業態を作る

経営に専念した独立当初

-固定店舗は競合店がひしめく東京恵比寿に出店したのですね。
実はこれ、「お店を出すなら東京でしょう」という友達の言葉に結構誘惑されちゃったのですよ。今では絶対に出しませんね。ですが、この難しい場所を乗り越えればこの後成功できるだろうという考えもあったので、無理やり東京に出店したような感じです。

移動販売をして経営の楽しさを感じ、もっとそこを磨いていきたいと思ったので、私は現場に立たないということを決めました。今でこそ現場でも色々な仕事があるなと思っていますが、現場と経営を一緒に行えば逃げ場所ができるような気がしたのです。

そこでお店をしたいというシェフを雇い、その方がイタリアン専門だったので2010年10月に「Amore Smile」というカジュアルイタリアンのお店をオープンしました。ですが結局そのお店は3ヵ月で閉店します。10月11月は知り合いが来てくれましたし、12月は飲食店の繁忙期だったので、売上が悪かったわけではありません。ですが、恵比寿で飲み歩いて街の人との関係を作っていく中で「完全にこの街のニーズを外しているな」と思ったのです。

そこで翌年「スペインバル bardEbis」としてリニューアルオープンしました。2012年頃からスペインブームが到来したこともあり、雑誌の取材を受けたりお客様から問い合わせが急増したりして一気に軌道に乗ることとなります。

-独立して移動販売を始めてからずっと順調だったのですね。
大きな赤字というのを出したことはありませんが、3.11の震災の時は売上を大きく落としました。この当時もキッチンカーの売り上げがよかったのですが、震災後はイベントが軒並み中止され仕事が全然なくなったのです。
仕事がなかったので、同業者から食料をカンパしてもらいトラックで岩手県まで炊き出しに4~5日行ったこともあります。自分自身のメンタルの維持のためにも、ボランティア活動などを積極的に行い気持ちを鼓舞していた感じです。
震災から3ヶ月ほどたってからはイベントなども通常通り増えてきて、そこからはグッと売り上げも増えました。

時間と労力に見合わない店はやらない

撤退のタイミングを見極めるポイント

-新店舗を出すときの基準はありますか?
その街に一番必要とされたものを作りたいので、もともとある自分たちの業態をはめ込むというよりは、この街にこういうのができたら街の人たちが楽しくなるんだろうなという業態を開発しています。だから、昔から飲み歩いていた街とか住んでいた街とか昔から自分と縁があるところに出すことが多いです。

-閉店の判断も早いですね。判断基準はありますか?
例えば、スペインバル bardEbisが流行った時に、予約がいっぱいでかなりのお客様をお断りしているような状態でした。ですから離れを作ってそちらに回すようにしたのですが、スペインブームが終わり徐々にお客様が減っていきます。大きなマイナスもなくそれなりに離れも営業出来ていたのですが、この売り上げに対して社員をひとりつけて営業するというのはお互いによくないなと思い閉店しました。立地や売上を考え、そこに労力を割くべきではないと判断した場合は、早めに撤退します。

また損益分岐点は毎回作っていまして、その分岐点に対して±0だったり多少利益が出ていたりすれば基本的には続けますが、人を雇うというのは結構エネルギーを使うじゃないですか。そういうところで自分の時間と労力が売上に対して見合うかどうかということや、他の店舗を後々に圧迫していかないかというバランスも考えています。

生産者と直契約し従業員のモチベーションを保つ

アクトダイニング株式会社 田中 洋介

飲食業の本来の楽しみとは?

-社長ご自身のモチベーションを保つ秘訣はありますか?
個人事業になって約12年経ちますから、もちろんモチベーションの波があります。ですが自分がこの仕事を選んでいるわけですから、モチベーションも自分で作っていかなくてはいけません。それが見えなくなった時には、仕事を少しセーブして自分を見つめ直す1年を過ごしたことが今までに2回ほどありました。

お金を回して利益を得るというだけでモチベーションを保つというのは面白くありませんよね。そこで生産者の話を聞きながら飲食を通して環境問題に切り込んで行けたらいいなという思いが強くあります。

お店でうまく利益を生み出し表面的に自分のやりたい事もやりながら、何か社会のためになることがついてくるというのが会社の理想形です。

-社長のビジョンを従業員に浸透させるのは難しくはないですか?
数年前まではそれこそ自分の気持ちで動いていたので、従業員の離職率が高くなったこともあり自分には何が足りないものがあるのだと気づきます。そこでコンサルをつけて、経営理念を作り込んだりそれを浸透させたりする手助けをしてもらうことにしました。
従業員のモチベーションを作るためにも計画を立てて会社としてはこういう方向に進んでいくということや、自分たちが飲食業としてやっていかなければいけないことを言語化し明確にすることで、会社のビジョンを浸透させています。

また、給料体系の見直しや業務改正なども行いました。具体的には、今まで各店舗に経理面など細かいことを任せていたのですが、それを本部で一括して処理することにしたのです。それにより店舗の従業員が、現場のことに注力できるような環境作りができているのではないかと思います。

-その他、従業員満足のために取り組まれていることはありますか?
生産者である一次産業の方々にヒアリングをしたり直接契約をしたりしています。元々は食品ロス問題に取り組みたいということでスタートしたことなのですが、生産者に会うと学べることがとても多くて、うまくそれを従業員達に落とし込めたらいいなと思い、各店舗に地方の食材を振り分けている段階です。飲食店の本来の楽しさは食材をしっかり見てこの食材をどう使うのか思案したり、生産者の想いをお客さんにしっかり届けたりすることが原点だと私は考えています。もし気になる食材があると従業員に言われれば、直接農家さんの連絡先を教えオーダーができるというところまで行なっているので、今までとは違うモチベーションに繋がるのではないでしょうか。

実際に生産者の方のところに足を運ぶのは私自身とても楽しいので、それを色々な形でうちの従業員に反映して、お客さんにも伝われば従業員の満足度に繋がると思っています。

会社の強みを磨く

直送のメリットとは?

-今後の会社としての展望を教えてください。
直送ということによりこだわりたいと思っています。
昔の物流は生産者から市場を通して問屋に行き、レストランに食材が届きます。今は直送をサポートするサービスがあるのですが、その場合も生産者からそのサービスに一度集荷されてレストランに届くので厳密には直送ではありません。直送と謳われている食材も、輸送時間や集荷されることを考えるとレストランに届くまでに3日は経ってしまうわけです。

一方当社ではダイレクトに農家さんや漁師さんとコンタクトを取ってオーダーすることで、圧倒的な鮮度を確保できます。例えばトマトでいうとスーパーにあるようなものはまだ熟れきれていない黄色の状態で出荷され輸送の間に追熟して赤くなりますが、直送であれば、ギリギリまで栄養を蓄えた赤に近いオレンジの状態で出荷できるので美味しさが全く違うのです。
他にも消費者側のメリットとしては、市場に出回らない珍しい地方の野菜を届けることができるということ。野菜の知識や生産者の方の思いを食べながら感じられるというのが当社の強みでもあります。

直送は生産者の方にもメリットが多いのですよ。意外に思うかもしれませんが、生産者の中には「何を作ったらいいのか分からない」という方が多くいます。レストランと直接話をすることで、必要とされている野菜が明確になるでしょう。
価格面でもメリットがあり、農家さんたちは自分が作ったものを市場に卸す時に農協からある程度価格を決められてしまうのですが、レストランと直契約であれば自分で自由に価格を決められるので利益がアップします。

生産者、消費者ともにメリットが大きいので、これからはそこを強めて関わる人全てを笑顔にするということを進めていきたいです。

-その他会社として取り組んでいることはありますか?
食品ロスに関しても取り組みを始め、当社では、横須賀の長井漁港で産廃業者に持っていかれる魚を買い取っています。産廃業者は農家さんの肥料にするために買い取るのですがその買い取り額はかなり安いので、当社はそれを適正な価格で入札するのです。もちろん買い取る魚はとても美味しい魚ばかり。売れなかったという理由だけで産廃物として扱われているだけですから、当社がこうして食品ロス対策の活動することで会社の特色が生まれ、みんなの意識を高めることができれば嬉しく思います。

ー本日はありがとうございました。

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